論語と算盤:最終回

論語

【細心にして大胆なれ】

我が国は不幸にして長年鎖国の状態にあったので、世界の趨勢に遅れた。
開国以来、たとい列国を驚愕せしむるほどの急速の進歩を為したと言え、万物の事物は彼に遅れ、いわゆる後進国の状態をまぬがれない。

我々は彼に倍する努力を持って進まねばならぬ。されば、従来の事業を後生大事に保守し、或いは過失失敗を恐れ、逡巡するごとき弱い気力では、到底国運の退嬰をまねく。

溌溂たる進取の気力を養いかつ発揮するには、真に独立独歩の人とならねばならぬ。元より細心周到なる努力は必要であるが、一方大胆なる気力を発揮し、細心大胆の両面を併せ持って、初めて大事業はなるといえる。

【成敗は身に残る糟粕】

世の中には悪運が強くて成功したように見える人がないわけではない。
しかるに、人を見るに単に成功したとか失敗したとかで見るのが根本的に間違っているのではないか。人は人たるの務めを基準として一身の行路を定めねばならぬもので、いわゆる成功とか失敗は問題外で、ただ丹精した人の身に残る糟粕のようなものにすぎない。

現代の人の多くはただ成功とか失敗とかということにのみを眼中に置きそれよりもっと大切な、天地間の道理を見ていない。
道理は天における日月のごとく、終始昭乎として、豪もくらまさざる物であるから、道理に伴って事を為すものは必ず栄、道理にもとってことを計るものは必ずほろぶと思う。

社会に処して実質のある生活を心がけ、事の成敗以外に超然と立ち、道理に則って一身を終始するならば、価値ある生涯をおくることができる。いわんや成功は、人たるの務めを全うしたるより生ずる糟粕たるにおいては、なおさら、意に介するに足らぬではないか。

昭和3年 渋沢栄一

今年の暮れとともに、長くつつづけた論語と算盤の解説を終えます。
渋沢栄一に影響を与えた人受けた人はたくさんいるので、来年は、ドラッカーあたりからと思っています。

皆さんよいお年を!

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