渋沢は語ります。
御用商人というと、悪者という印象があります。
自分の知る限り、それなりの資力もあり、
よく道理をわきまえていて、
面目を重んじ、信用を大切にします。
このような人間は必ず是非善悪の判断に
迷わないはずですから。
仮に官符の人から多少いかがわしい申し出があっても
オイソレとは、応諾しないはずです。
最近、明らかになった海軍関係の事件にしても
いやしくも双方悪い考えが一致しなければ、
成立しないはずです。
ところが、海軍収賄事件の内容によれば、
一人シーメンス商会が悪いわけではなく、
およそ物品の買い上げにはほとんど贈賄を伴っているといいます。
「大学」に「一人貧戻(たんれい)ならば一国乱をなす」
という語があります。
実に恐ろしいことです。
以前私は、かような不正な贈賄をなす実業家は、
海外にはともかく、
吾が日本にはあるまいと思っていましたが、
はなはだ遺憾の限りです。
畢竟かような事件の発生するのも、
仁義道徳と生産殖利を別々に考えるからで
いやしくも、生産殖利は
正しき道に沿って経営すべきものとの観念が、
われわれ実業家の、信念となっておれば
このような事件はおこらぬものと信じます。
実業界に不正の行為が後をたたないようであれば、
国家の安全を期することが
できないというというまでに深く私は憂いています。
シーメンス事件というのは
海軍軍艦の発注に当たり、ドイツのシーメンス協会が
海軍高官の贈賄した大正3年に発覚した事件です。
この秘密書類を盗み出したシーメンスの社員が、
その秘密書類を買い取るように
海軍を脅迫したところから始まりました。
海軍を脅迫したところから始まりました。
時の海軍大臣斉藤実は
「わが海軍にかかる醜事に関係する武官あるべからず、
秘密書類の公表はむしろ望むところなり」
と突っぱねました。
しかし、その社員がドイツに帰国直後に逮捕され、
ドイツの司法により日本海軍高官の実名まで全世界に公開されました。
その結果、全く無実出会った、
海軍大臣斎藤実だけでなく
日露戦争の英雄山本権兵衛総理大臣まで、更迭されました。
この二人を失ったことが、
後の第二次大戦につながったというので、
渋沢の心配どおり
「一人貧戻なれば、一国乱をなす」
というとおりでした。
来週は「義理合一の信念を確立せよ」を解説します。

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