論語と算盤の初版は、昭和3年に発行されました。
内容は、渋沢栄一の講演を整理し、
「処世と信条」「立志と学問」「実業と士道」
など、十項目に分け、一冊の本にしたもので、わかりやすいです。
ところが、その内容は深く、それこそ意味深長で、
うっかりすると、上面だけを読んで、
分かったような気になります。
渋沢栄一は実践の人で、実業家です。
その実績は凄まじいもので、
およそ500と言われる、銀行、企業、大学を創立し、
日本資本主義の父と言われています。
例えば、
第一銀行、みずほ銀行、東京海上火災、
帝国ホテル、キリンビール、サッポロビール、
王子製紙、東急、秩父セメント、東洋紡、
理化学研究所、東京証券取引所、一橋大学、
東京経済大学、日仏会館など・・
50年の実業人生で、
毎年10社の大企業の元を創ったのです。
第二次大戦の戦果、
財閥解体を経て、今日に至る大企業も数多くあります。
来年の大河ドラマ「青天を衝く」の主人公で、
再来年発行される新一万円札の顔にもなります。
現在では、『論語と算盤』は、
【ちくま新書】や【角川ソフィア文庫】からも出版されていますが、
今回、私が手にしたのは、
昭和60年初版の国書刊行会編のものによります。
35年前、王子にある渋沢青淵記念財団竜門社を、
国書刊行会の社主、佐藤今朝夫社長が訊ね、
刊行にいたりました。
またその縁から、日本語学校ができています。
これを英訳して出そうと思うので、
意見を聞きたいという社主の依頼で読んでみました。
一読して、なるほど、これは、今出すべき本だと納得しました。
例えば、38ページ。
我々も、明治6年頃から、
物質文明に微弱ながらも全力を注ぎ、
今日では有力な実業家を
全国至るところに見るようになり、
国の富も非常にましたけれども、いずくんぞ知らん、
人格は維新以前よりは退歩したと思う。
否、退歩どころではない
消滅せぬかと心配しているのである。
104ページ。
実業家の精神をして
ほとんど全てを利己主義たらしめ、
その念頭に仁義もなければ
道徳もなく、甚だしくに至っては
法網を潜られるだけ潜っても
金儲けをしたいの一方にさせてしまった。
従って今日のいわゆる実業家の多くは、
自分さえ儲ければ他人や世間は
どうあろうとも構わないという腹で、
もし社会的及び法律的の制裁が絶無としたならば、
かれらは、強奪さえ仕掛ねぬ、
という情けない状態に陥っている。
もし永くこの状態を押していくとすれば、
将来貧富の懸隔はますます甚だしくなり、
社会は愈々あさましい結果に立ち至る事
と予想しなければならぬ。
185ページ
好人物だけれども、
その代わり事業経営の手腕のないものが有る。
そういう人が重役になって居れば
部下にいる人物の善悪を識別するの能力もなく、
帳簿を査問する眼識もない、
ために知らず識らずの間に部下に謬られ、
自分から作った罪でなくとも、
ついに救うべからざる窮地に陥らねばならぬことがある。
およそ、一世紀。
100年前の本なのですが、
今にこそ必要な考えだと思います。
渋沢栄一は「天譴論」
という考えの主唱者であったといいます。
天譴論は、
人間が自然に反する行為がすぎると、
天が戒めのため、
災害天変地異を表すという考えです。
渋沢が、今日のコロナ世界蔓延を見たら、
『今こそ、人類よ道義に目覚めよ』
と言ったのではないかと思います。

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